エンジニアの処方箋 #1 〜エンジニアのメンタルヘルスを考える〜
エンジニアのメンタル不調対策
榎本 純也氏
メンタルヘルスはエンジニアにも必要となる知識
基礎知識とケーススタディをもとに説明
イントロ
自己紹介
- 震災の時石巻の病院に勤務
- 熊本地震でも参加
- 優秀な人がアナログなやり方をしていたので医学から離れてみた
- コーディングと医療
- 勉強会というより仲間探しの気持ちで発表
注意点
- 産業医の立場
- 会社と従業員の間に立つ
- 街の医者と立場が違う
- メンタル不調を個人で防ぐのに難しさがある
- 個人でできることに限界がある
- 管理者向けになってしまう話もある
- 産業医の立場
メンタル不調とは
精神および行動の障害に分類される精神障害や、自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および公道上の問題を幅広く含むもの (厚生労働省指針)
誰にでも起こりうる
勤勉・几帳面・真面目な人に起きやすい
一般的な症状 8つ
憂鬱な気持ちが続く
焦燥感不安感
夜眠れない、寝ても目がすぐ覚めてしまう
表情が乏しくなる
遅刻、欠勤が増える
家事や仕事など、今まで当たり前にできていたことができなくなった
仕事のミスが増える
身だしなみに無頓着
エンジニアのメンタル不調
エンジニアのメンタル不調の特徴
- 業務内容が特殊であり、原因を探るのが大変。そのため、ある程度進行してから初めて周囲が気づくことが多い
- エンジニア業務に一段落というものが見えづらく、過負荷になりがち
- 開発だけで終わりではない
- 熱中しているときは本人すら不調に陥っていることにきづかない
- エネルギーがあるうちには無理に進めてしまう
- 燃え尽き症候群
不調の原因の分類
前提:エンジニアは専門性の高い職
問題になる原因
コミュニケーションの問題
- 非エンジニアとの関係
- 仕様変更など
- 専門領域の違い
- エンジニアとの関係
- 専門知識のぶつけ合い
ノルマの問題
- ビジネスの成長速度が早いことで無茶なノルマが設定
- 最近だとChatGPTとか
- 需要過多だとストレスが生まれやすい
- 慢性的なエンジニア不足も影響
- コードの品質にも影響
人材の不適切配置
一般的に適性に応じた人事にしないと、不適切な配置になりストレスになる
エンジニアごとに得意領域があるが、分野の専門性が高いため、傍からだと不適切かどうかわかりにくい
- 〇〇エンジニアって世の中沢山ある
- バックエンド、フロントエンド、インフラ、データetc…
- 〇〇エンジニアって世の中沢山ある
コードの不健全性
- コードの状態は実際にコードを触る人にしか状態を認識されない
- 不健全なコードはメンタルに有害
- 不健全なコードは不健全なプロジェクト進行やノルマから発生する
- 不健全なコードが次の不健全を生む
健康診断は会社の義務
メンタル不調の予防
- 予防の段階
- 一次予防
- 健康の維持増進
- 二次予防
- 早期発見、早期治療と重症化防止
- 三次予防
- 合併症の防止
- 再発防止
- 機能低下の防止
- リハビリ
- 一次予防
一次予防:セルフケア、個人で気をつけること
- キリのよいところまで仕事をする、というよりも中断再開できる技術を身につける
- こうあるべき、という考えに陥らない
- 認知行動療法
- 人(他の人)がこうあるべきだという考えなど
- コードレビューでコードの品質を保つ
- 1時間に1回は席を立ち軽い運動をする
- 肩こり予防で分離型キーボードを使う
二次予防:早期発見・早期治療
- セルフケアには「ゲイツ心配おねしょ」サインを活用する
元気がない
イライラ
疲れた
心配、不安
起きられない
寝られない
症状:頭痛、肩こり
抑うつ
- メンタル不調の予兆となる「ケチ、嫌な飲み会」サイン
欠勤(特に休み明け)
遅刻(微妙な遅刻、ギリギリ出社)
イライラ
やめたいと言い出す
泣き言
能率の低下(残業、休日出勤、変な時間のSlack)
ミス、事故、過剰な確認
周りから見て様子おかしいという時はかなり不調が進んでいる
どのように介入すればいいか?
- メンタルヘルスファーストエイド
- 専門家に相談するまえにすることのこと
- メンタルヘルスファーストエイド
「りはあさる」
- リスク評価
- 状態を聞く
- 話を聞く
- 決めつけない、傾聴する
- 安心につながる支援と情報提供
- 産業医や心療内科
- 産業医→会社側が依頼
- 心療内科→自覚症状
- 産業医や心療内科
- サポート
- ヘルプを勧める
- リスク評価
ケーススタディ
Case1
ベンチャーでのケース
Aさん:フロントよりのエンジニア
Bさんがコロナ禍で離脱
社長はエンジニアではないがPM経験者
離脱を気にAさんと社長が衝突するように
- 社長とAさんの思惑のずれ
- リソースがたりない
- 作り込みのレベルのミスマッチ
2ヶ月後ある程度出来上がってきたところで、Aさんの調子がおかしい
産業医に相談したものの面談なくドロップアウト
何が問題だったか?どのようにすればメンタル不調リスクを低減できたか?
リソースが足らないことをAさんが自覚できていたか
Aさんのシード開発経験の有無を社長は認識できていたか
- もとはBさんがAさんを採用
お互いの思惑や思想、開発の見積もりを話し合えていたか
- アジャイルでづれることはあるにしても認識ギャップを埋めていたか
Aさんが孤独になっていないか
- 褒める文化、リアクション
フルリモートで状態が見えづらいことを社はケアできていたか
社員の場合メンタル不調の休業は、会社としては安全配慮義務としてさせなければならない
Case2
- 中堅非テック企業のケース
- 顧客からの注文を独自のシステムで簡略化したい
- 社内エンジニアは2名(Cさん、Dさん)
- Dさんは子会社に出向することがあり、CさんとDさんは十分にコミュニケーション取る時間がなかった
- 1年ほど前からCさんの遅刻が目立つように
- 注意したが改善せず
- 半年まえから頭痛で頻繁に休むように
産業医との面談
- プロジェクトで開発するべき内容が想定の内容と大きく乖離
- ほぼ0から設計構築が必要
- Cさんは前職でも自身で設計してプロダクトを開発した経験がなかった
- Dさんとのコミュニケーション不足
- Dさんが忙しい
- Cさんがコミュニケーションが苦手
何が問題だったか?どのようにすればメンタル不調リスクを低減できたか?
労働衛生の3管理(エンジニア編)
- 作業環境管理
- 開発環境の意図を明確にする
- 人的リソースの確保
- 作業管理
- ノルマ設定
- コードの健全さの定期チェック
- 採用ミスマッチの解消
- 健康管理
- 面談・上司達との定期面談
- 普段のコミュニケーション
- 作業環境管理
→ 今回のケースでは能力のミスマッチが発生。目標設定、プロジェクト方針の見直しが必要
産業医が診断まではしない。それは別途各クリニックを受診してもらう。
事前アンケート回答、質疑応答
Q
エンジニアには間違いをストレートに言う人が多い印象で、傷つけない伝え方や聞き方のアドバイス いろいろな人を病ませていく攻撃的な人はどう対応するべきか
A
- 分類
- アサーション、認知行動療法
- 伝え方
- アサーショントレーニング
- 相手と対等な立場に立って自己主張をするためのコミュニケーションスキル
- 管理者クラスが認識する
- 個人でなんとかするのに限界がある
- アサーショントレーニング
- 聞く側
- 自分のスキルや知識に自信をもち威圧的な発言を聞き流せるように
- 難易度は高いが
- 自分のスキルや知識に自信をもち威圧的な発言を聞き流せるように
Q
- プレイングマネージャーで案件を掛け持ちしている
- 各種作業や管理でパンクしてしまう
- それの乗り越える手立てもしくは断ったほうが良いか?
A
分類
- マネジメント
断るのレベルがどのくらいかによる
- 案件自体
- 仕事
- プレイングを変えるなど
会社の期待値のレベルを明確にして、期待値が人一人の量を超えている場合は難しい旨を伝える
歩み寄れる解決策を論理的に提示する
- 機能を減らす
- 納期を伸ばす
- 人を雇う(むしろ時間がとられる場合あり)
プロダクトマネジメントの観点からもプレイングマネージャーは避けたほうがよい
Q
- リモート下でのメンタルヘルスについて
- セルフケアについて
A
- 通勤時代と同様の行動を心がける
- オンとオフをわける
- Slackの運用ルールを決めておく
- 18:00以降は連絡しないなど
- 仕事部屋を決めてプライベートでは入らないようにする
- 1時間に一回は席をたつ
- 画面から離れて思考する
- リマインドする
Q
- 絶対メンタル不調大丈夫と思いっている人に、絶対はないとどうやって認識してもらうか
A
- 人の考え方を無理やり変えようとすべきでない
- 考え方がこうあるべきという思いが強いとメンタル不調を起こしやすいので注意
Q
- メンタル不調の人の統計
- 心理的安全性との関連
A
- ググってください
- 心理的安全性はGoogleが提唱する概念で医学的な統計はない
- とはいえ心理的安全性を保つのに、メンタル不調となる原因の除去は必要で、アサーショントレーニングも必要になるので、間違いなく相関はあると思われる
Q
- 一度メンタルを壊した人はどうするか
A
- 分類:三次予防
- 悩ましい問題
- 一度なると元のレベルで仕事をこなすのが難しくなる
- 早期発見・治療が大事
- 焦らず治療する
Q
- チームメンバーの不調を知るための具体的な方法、健全なチーム
- よりよいエンジニアのパフォーマンスを出すには
A
- 産業医観点だと対応しづらい。エンジニアの解決に期待したい。
- slack発信頻度とか
- 1on1は自分の話や意見を言わないように
- オープンな状況で自由に話してもらう
- 話をしてもらっても、その人の内部に答えがない場合は導き出せないことに注意
- KPTをマネージャーがタスクとしてフォローアップする
Q
しんどいときにポジティブにいる方法
A
- そもそもスケジュールとか全体管理での対応が必要
- 頑張りでの対応には限界がある
- 頑張りすぎないで
Q
- 客先常駐や派遣でメンタルヘルス対策をする方法(孤独になりがち)
A
- 難しい問題
- 複数のコミュニティ
- 外部のエンジニアコミュニティに参加してみるとか
Q
- うつ病から復帰した人と接するときに注意すること
A
- 過剰に気を使わない
- 原因となったことには注意する(普段から)
Q
- エンジニアの劣等感、周りとの焦り
A
- 産業医としては特にない
- 成長する環境を選ぶ
- 本業以外のことでやってみる
- 劣等感は客観視ができていること
- ハードワークとはせず、できる範囲で積み上げる
感想
- 産業医観点からのメンタルヘルスについては面白いと思った。
- 仕事の中で個人でできることって中々少なくて、プロジェクト全体をうまく回す(メンタル面も含めて)という意味ではマネージャーの役割が大きいと感じた
- 他人を考えを変えようとしてはいけないというのが印象的だった